【公的年金、このままではヤバイ】令和6年7月発表・年金財政検証〇〇に注目して読み解く!!/オプション試算で年金制度改正を予測
令和6年7月に、厚生労働省から公的年金の財政検証結果が発表となりました。
この公的年金の財政検証というのは、日本の年金制度が今後も持続可能かどうかを評価し、必要な改革を検討するために、5年に1回行われているものです。
今回は、その財政検証結果の概要を具体的な数値を交えながらご説明していきます。
また、オプション試算結果というものも公表されており、もし年金制度をこうしたら年金受給額はこうなるというものなのですが、その「もしこうしたら」が結構重要だと感じています。
ある意味、今後の方向性が示されているわけですので、個人としては国がどう考えているかを事前に知ることで、早めに対策を立てることもできるからです。
そんなオプション試算結果も含めまして、お伝えしていきます。
「財政検証結果」の見方&「所得代替率」とは?
まず、「財政検証結果」の大きな見方からお話をしたいのですが、将来の年金財政の見通しを立てるために、一定の前提を置いて、複数のケースで試算がされています。
そのそれぞれの前提ですが、経済成長率、出生率や平均寿命などの人口予測、厚生年金の被保険者数(加入者数)、賃金上昇率、物価上昇率、運用利回りなど様々あります。
そして、この財政検証を読み解く上で、ポイントになるのが「所得代替率」と呼ばれるものです。
耳慣れない言葉かもしれませんが、この「所得代替率」というのは、現役世代の平均収入に対する年金給付の割合を指すものです。
2024年度は、現役男子の平均手取り収入が37万円に対して、年金の方は夫婦2人の基礎年金が13.4万円、夫の厚生年金が9.2万円であるため、所得代替率は61.2%だそうです。
現役世代の収入は男性のみの収入なのか、年金額は厚生年金が夫のみということは専業主婦世帯を想定しているのかなど、突っ込みたくもなりますが、過去の数値との整合性を図るために、変え辛いのかなぁなどと想像してしまいました。
それはさておき、2024年度の所得代替率は61.2%ですので、将来の前提(経済成長率や人口予測、厚生年金の被保険者数、賃金上昇率、物価上昇率、運用利回りなど)が変化することで、所得代替率がどうなっていくのかをシミュレーションしているのが財政検証です。
そして、所得代替率が変わらなければ、年金の給付水準は現状維持と言え、所得代替率が下がるということは、年金の給付水準は下がり、所得代替率が上がるということは年金の給付水準が上がるということです。
つまり、物価や賃金の変動も含めて「年金の給付水準」を将来も維持していくには、単に年金額ではなく、所得代替率を維持していく必要があり、その所得代替率を維持していくために、必要な対策として検討されているものがオプション試算結果となっています。
それでは、見方のご説明はここまでにしまして、中身に入っていきたいと思います。
経済成長率の差異によるシミュレーション結果
まず、経済成長率の差異によるシミュレーション結果ですが、対物価の実質賃金上昇率が2%で推移した高成長実現ケースの場合、2060年の所得代替率は56.9%と、現在より5%程度下がるそうです。(図1参照)
一方、対物価の実質賃金上昇率が0.5%で推移した過去30年投影ケースの場合、2060年の所得代替率は50.4%と、現在よりも10%以上下がるそうです。(図2参照)
なお、今申し上げた試算結果は、人口予測が中位推計なのですが、さらに人口予測の変化(出生率の高低、寿命の延びの大小など)も加えたものがこちらになります。(図3参照)
高成長実現ケースを見てみますと、出生率が高まったり、寿命の延びが小さく死亡高位であったりしたとしましても、所得代替率は60%を切り、現在の水準よりも低くなっていますね。
また、過去30年投影ケースを見てみますと、出生率が低下したり、寿命の延びが大きい死亡低位だったりしますと、2060年代に所得代替率は40%台になるというシミュレーション結果となっています。
また、今回の財政検証では、生年度別に見た年金受給額の見通しも公表されました。(図4参照)
図4をご覧いただきたいのですが、成長型経済移行・継続ケース、具体的に言いますと、上に前提の記載がありますが、賃金上昇率は対物価の実質で1.5%となっています。
今年2024年に65歳となる1959年生まれの方が夫婦でもらうモデル年金額は22.6万円ですが、例えば私と同級生の1974年生まれの方が65歳となる2039年に夫婦でもらうモデル年金額は24.7万円、1994年生まれの方が65歳となる2059年に夫婦でもらうモデル年金額は33.3万円と、年金額だけで見ますと、増えていますね。
ただ、注意が必要でして、年金額の下に記載がある所得代替率は今年の61.2%から57.6%と低下していますので、実質的な年金給付水準は下がっているということです。
さらに、賃金上昇率が0.5%である過去30年投影ケース(図5参照)で見てみますと、年金額も現在より減り、所得代替率も大きく低下する結果となっています。
あくまで個人的な見解ですが、これらの試算結果を見ていますと、経済成長を少ししたり、少子化対策をして出生率が少し上昇したりするだけでは、現在の年金制度のままで年金給付水準を維持するのは無理なんだろうなぁと、読み取れてしまいます。
財政検証結果の資料は、関連資料を含めますと100ページを超えており、その中から一部を今回はご紹介しています。
詳しく知りたいという方は、厚生労働省のページで公開されていますので、そちらを是非ご覧ください。(参考資料リンク先:厚生労働省ホームページ「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/index.html)より)
オプション試算結果について
さあ、続きまして、私が特に注目しているオプション試算結果についてお話をしたいと思います。
これは、冒頭にもお話しましたが、年金制度を、例えば、こう変えたとしたら、こうなりそうだというシミュレーションです。
将来の年金制度の改正を想定しておくには非常に参考になる試算だと感じています。
全部で5つの試算がされていますが、それがこちらです。(図6参照)
- 被用者保険の更なる適用拡大
- 基礎年金の拠出期間延長と給付増額
- マクロ経済スライドの調整期間一致
- 在職老齢年金の見直し
- 標準報酬月額の上限見直し
それでは、具体的に見ていきましょう。
1.被用者保険の更なる適用拡大
パートなど短時間労働者の人をもっともっと厚生年金に入れた場合の被用者保険の更なる適用拡大試算ですが、図7をご覧ください。
パートなどの短時間労働者のどこまでを厚生年金の加入対象者にするかによって、将来の所得代替率への影響は異なります。
例えば、適用拡大④「所定労働時間が週10時間以上の全ての被用者を適用とする場合」ですと、経済状況が比較的良い場合の成長型経済移行・継続ケースで+3.6%、経済状況が過去30年投影ケースで+5.9%と、どちらにしましても所得代替率に、大きなプラス効果が出る試算結果となっています。
個人的な見解ですが、今後、ますます短時間労働者の社会保険適応拡大は、要件が緩和され、厚生年金などの社会保険に入らないといけなくなるパートなど短時間労働者が増えるだろうとなぁ感じました。
2.基礎年金の拠出期間延長と給付増額
続きまして、オプション試算「2.基礎年金の拠出期間延長と給付増額」ですが、図8をご覧ください。
将来の所得代替率へのプラスの効果が大きいですね。
近い将来、基礎年金は保険料を65歳まで払うことになるよう、年金制度の改正がされるような気がしてしまいます。
3.マクロ経済スライドの調整期間一致
3.マクロ経済スライドの調整期間一致については、図9の通りでして、将来の所得代替率にプラスの効果があります。
年金制度の改正がある際には、サクッと盛り込まれるような気もします。
1.2.3.組み合わせ試算
さらに、ここまでの1.2.3.を組み合わせた場合のシミュレーション結果もあり、それがこちらです。(図10参照)
経済状況が良くても、過去30年投影ケースでも、現在の所得代替率61.2%を上回る試算結果も出ています。
つまり、制度改正をすることで、現在の年金給付水準を維持できる試算結果と捉えることができるのではないでしょうか。
ファイナンシャルプランナーとして相談をお受けしていますと、「公的年金って大丈夫なんですか」という質問を受けることがあります。
将来のことは分かりませんが、このような財形検証結果、オプション試算結果を踏まえますと、現在の制度のままでは厳しいでしょうが、制度改正をしていくことで、年金の給付水準を維持していくことは可能なのではないかと感じます。
さて、オプション試算結果に話を戻しますが、あと2つあります。
4.在職老齢年金の見直し
4.在職老齢年金の見直しについてですが、撤廃した場合の試算が図11で、将来の所得代替率への影響はマイナスとなりますが、0.5%ですから軽微と言えるのではないでしょうか。
年金をもらいながら働いている人の中には、働くことで年金が減るのはもったいないから、働くのをセーブしているという人もいるかと思います。
労働意欲、労働力の観点から、将来の所得代替率へのマイナス影響が軽微なら、早々に在職老齢年金の撤廃はあるのではないかとも感じます。
5.標準報酬月額の上限見直し
そして、オプション試算結果の最後、5.標準報酬月額の上限見直しを行った場合です。(図12参照)
現在の65万円から75万円、83万円、98万円の3案で試算がされていますが、将来の所得代替率へのプラスの効果は1%を割っており、こちらも軽微と言えるのではないでしょうか。
この見直しをしたとしますと、高収入者にとっては将来の年金額は増えるものの、今の手取り収入は減りますから、歓迎されないですよね。そうしますと、この見直しは積極的な方向ではないのではないかと勝手に予想しておきます。
ということで、オプション試算結果についてお伝えしてきましたが、将来の年金制度改正の方向性、何となく想像できるのではないでしょうか。
まとめ
最後に、まとめておきますと、日本の公的年金制度は、少子高齢化や経済の変動により、将来的に大きな課題に直面することが予測されています。
財政検証とオプション試算の結果から、出生率の向上や経済成長の維持が不可欠であり、さらに短時間労働者の社会保険適用のさらなる拡大など制度改正の方向性も想像できたと思います。
政府は、国民に対して、自助努力という言葉を用いるようになり、非課税で運用できるNISAと呼ばれる少額投資非課税制度や、税優遇を受けながら自身で年金を準備するiDeCoと呼ばれる個人型確定拠出年金・DCと呼ばれる企業型確定拠出年金といった制度の創設や改正を進めています。
今回の動画で、日本の年金制度の現状と将来の課題について理解を深めるとともに、自身の働き方、資産形成を考える上での参考としていただければ、嬉しく思います。
※参考資料リンク先:厚生労働省ホームページ「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/index.html)より